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教授コラム

教授コラム Vol.40「外科医の父より医師になる息子へのメッセージ7 人間関係に悩むとき」

君がどこの科に進もうと職場の人間関係で悩むことがあるでしょう。人間関係が難しいのは患者さんとの関係よりも、看護師さんを初めとする医師以外のメディカルスタッフとの関係だったり、医師同士の関係だったりすることが意外に多いように思います。特に若いうちは医師以外のメディカルスタッフの皆さんとの関係が難しいところがあるかもしれません。しかし、患者さんを元気にするためには医師の力だけでは限界があり、多くの職種の皆さんとも良い関係を築いていく必要があります。

もう20年も前のことでしょうか、とても頑張り屋さんだけれど意気軒昂な研修医がいました。患者さんのために一生懸命頑張ってくれるのですが、病棟の業務のことで看護師さんと衝突してしまうのです。彼にとってはどうみても看護師さんたちの言うことは理不尽で我慢ができなかったのです。もちろん、職場で喧嘩は望ましいことではない。ただ彼もやる気のある前途有望な子で、彼の言い分にも一理あるというところもあったのです。たから、頭ごなしに注意してもうまくはいかないと思いました。彼に言ったのは「喧嘩することは構わないが、君の立場はどこにあるかをいつも考えてくれ。」と言いました。「患者さんのために」という1点を大切にしてくれということです。医療者である以上、患者さんのためになることであれば検討する余地があるはずです。自分が忙しい、負担が大きすぎる、看護師さんが楽をしているなどという理由でもめごとをおこしてもうまくいくはずがありません。我々が医療をしているのは患者さんのためですから、悩むことがあればそのような原理原則に立ち返ってみることが大切です。

もうひとつ大切なことは相手を尊重することです。もちろんわかっているとは思いますが、例えば看護師さんなど、医師以外のメディカルスタッフの皆さんは医師の使用人ではありません。ただ残念ながら、自分より弱い立場にいる人(本当はそうではないと思いますが)に威張り散らしたり、うまくいかないことをそのような人たちのせいにする医師はいるように思います。しかしながら、看護師さんたちは患者さんの身の回りの世話など、とても私にはできないことを使命と思って一生懸命やってくれています。たぶん、治療がうまくいかず患者さんが苦しんでくれているときにまずその不満を受け止めているのは医師ではなくて、看護師さんを初めとした医師以外の医療スタッフだと思います。

以前、病院長あてに看護師さんへの不満を投書した患者さんがいました。点滴がなかなか入らず、看護師のスキルが低いとか点滴が入らないことを血管が悪いからと患者のせいにするとか、内容としてはたわいのないものです。ただ、術後に合併症がおきた患者さんでしたので、患者さんの心にも余裕がなかったかもしれません。病棟師長さんはわれわれの科の病棟医長だった先生にその患者さんが不満を持っているらしいということを相談していたのですが、何も対応をしませんでした。私は患者さんが退院した後にそのことを知りました。私はすぐに病棟医長の目の前で患者さんに電話をしました。「不快な思いをさせて申し訳ありませんでしたね。」と謝罪すると患者さんは「いえいえ、すいません。こちらこそ申し訳ありません。」と言っていただけました。医師が早めに介入していればなんということもなかったのです。せっかく看護師長さんが相談してくれたのに医師がなにも動かなければ信頼関係を築くことは難しい。信頼は双方向で成り立つからです。自分が困った時だけ頼ってもうまくいくはずがないのです。以前コラムで「奴雁」という言葉を紹介しましたが、その先生に私は「君は病棟の奴雁となれ。」と言いました。医師は病棟のリーダーであるべきです。リーダーは弱い立場の人たちを守る義務があります。その先生はそれから大いに反省して自分に関係ない問題にも積極的に介入するようになり、看護師さんたちから頼られる先生になりました。相手を尊重するということはそのようなことだと思います。

医師の間でよくある不満は自分ばかり忙しいのに、暇な人がいて同じ給料をもらっているのが我慢できないということです。人間忙しいことには耐えられるのですが、不公平には我慢できないという人はよくいます。そのような不満を感じる時にはもう一度あなたが何を一番大切に考えて医師をしているのかを思い出してください。たぶん君は患者さんに頼られ、医師以外のメディカルスタッフに信頼されることを大切にしているのではないでしょうか。そうであればそれはそれでいいのです。信頼される医師はいつも忙しいからです。人間自分の価値観に沿って生きることが一番大切ですから。

自分が正しいと思っていても、いろんな人がいますから人間関係がうまくいかないことがあるかもしれません。私は相手に圧力をかけたり、コミュニケーションのスキルやテクニックでは(そのような本が実に多く世の中には出回っていますが)、相手を変えることはできないと思っています。その人に変わってほしかったら、まず相手の意見に耳を傾け相手を理解するよう努めることです。その結果、相手も自分のことを理解してくれようとするかもしれません。そのような双方的な信頼関係ができてはじめて、相手や人間関係に影響を及ぼすことのできる可能性が生まれます。相手を変えようと思えば自分がまず変わることです。

今、我々が活動する北5階の外科医と看護師さんたちはお互いのことを尊重し、患者さんを回復されるために力を合わせる最高のチームになっていると私は思います。