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教授コラム

教授コラム Vol.36「外科医の父より医師になる息子へのメッセージ3 医師としての判断力を身につける。」

君はまだ医師としての専門を決めていないと思いますが、医師として判断を下すことは大切ですね。以前、「外科医の誕生」という本を紹介した時、医師としての判断、decision makingの難しさについて少し触れたと思います。 初期研修医としてはなかなか自分自身で患者さんの治療方針について重大な決断を下すことはないかもしれません。ただ、常日頃からそのシミュレーションをしておくことは大切だと思います。例えば、指導医に患者さんの治療方針について相談する時に「自分ならこうする」ということを決めておくわけです。そうすれば、指導医の判断と同じだったか、違うのかがはっきりしてとても勉強になります。そのような積み重ねが大切だと思います。

話は私が2年目の研修医の時に遡ります。ある金曜日の夕方、開業医の先生から虫垂炎疑いの10歳の男の子で紹介されてきました。指導医の先生は保存的にみれるだろうということで、入院・絶食・抗生剤の点滴という指示を出されました。

その夜病棟の看護師さんから私のところに電話があり、男の子が39度の発熱と腹痛が強くなっているので診てほしいとのことでした。当時私は病院の敷地内の官舎に住んでおり、電話は院内電話でした。何か急変があると必ず私のところにファーストコールがあるという体制だったのです。診察したところ入院時にはなかった筋性防御が認められ、採血を追加したところ炎症所見も強くなっていました。

とても厳しい指導医でしたので、ちょっとビビッて電話をしました。私が「本日入院の10歳の男の子ですが、熱が○○で、バイタルサインは○○、筋性防御があって、採血では白血球は○○、、、」と報告をしていたところ、「あなたは看護師じゃないんだから。どうするの?手術が必要なの?」と指導医の先生は強い調子でおっしゃいます。「今日手術した方がよいと思います。」とびくびくしながら答えました。指導医の先生は「じゃあ、準備ができたら呼んでください。」といわれました。この当時、急患手術がその病院では少なかったので、手術場の看護師さんも呼び出しだったのです。金曜の夜に呼び出して、もし手術の所見で何にもなかったら、どんなに責められることだろうと思い、本当にドキドキしました。

手術所見では虫垂は殆ど破れており、腹膜炎がおきかけていましたので、手術をしてよかったと本当にほっとしたことをよく覚えています。でもそれから、必ず指導医に連絡する際には自分なりに結論を決めてから連絡するようになりました。そのことを口にする必要なないと思います。ただ、自分なりの意見を決めてから相談すれば指導医の判断との相違を勉強することができます。全く考えなしにデータだけを報告するのであれば、学習効果はほとんどないと思いますよ。そしてこのことは指導医の先生がやってくれた私への教育だったと今になればわかります。

毎日の臨床の中で学ぶことができれば必ず医師として成長することができると思います。