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教授コラム

教授コラム Vol.34「外科医の父から医師になる息子へのメッセージ1 よき社会人であれ。」

今春から君が医師となり働くことは本当にうれしく感じています。君自身が選んだ道とはいえ、父親が外科医、両親のおじいちゃんが医師、曽祖父が医師の家庭に長男として生まれた君にとって一番自然な道だったのだろうと思うと同時に「医師になってほしい」という無言のプレッシャーはあったのだろうと思います。それでも君自身の頑張りでここまできたことを父親としてうれしく思っています。医師という仕事はやりがいのある、そして患者さんから感謝される仕事だからです。

私は君たちが小さいころ仕事に忙殺される毎日で家庭のことはお母さんにまかせっきりのところは否めず、申し訳なかったと思います。また、私の医師としての経験を伝えたり、君にアドバイスをしてあげることはいざ会うと照れ臭く、機会もないかもしれないと思い、筆をとりました。

このメッセージはホームページで公開しますが、あなたと同じような若い医師の皆さんに参考になればという思いです。

私が医師となったのは昭和61年(1986年)のことで、もう30年以上前のことです。まだ臨床研修制度が始まる前のことでした。その頃は学生の6年生には何科を選ぶかを決定し、卒業と同時に入局するストレート入局の時代でした。6年生の12月ころまで迷っていました。本当は内科に行こうかと思っていました。いろいろ考えることは好きでしたし、正直言ってあまり運動神経もよくないし、手術のセンスがあるとも思っていなかったからです。また、祖父や父が外科の教授ということもあり、同じフィールドでやるのも正直、荷が重い気がしていました。

そのころ教授に就任されたばかりの杉町圭蔵先生や九州大学第二外科の他の先生方に強力に勧誘していただいて九大の第二外科に入局することになったのです。ですから、最初から外科医になるという強い意志や興味を持っていたわけではありません。ただ、5年生の時に前教授の井口 潔先生の最終講義における新しい術式の開発とその理論的な背景などを聞いて面白いなあという感想は持っていました。また、祖父や父が喜んでくれていたというのを聞いてよかったかなあと思ってはいました。

入局した九大の第二外科は今覚えば全国でも最も厳しい医局の一つでした。まず、社会人としてのあるべき姿勢を叩き込まれました。よく叱られましたが、この基礎がなければわたくしはどうしようもない、生意気な医師になっていたかもしれないと思い、今は心から感謝をしています。

君は医学部を卒業して医師国家試験に合格し医師になる以前に、良き社会人にならないといけません。患者さんのほとんどは自分より人生の大先輩です。その方たちと接するのですから、社会人としての常識や基本的なことが自然にふるまえるようにならなければいけません。挨拶をきちんとする、時間を守る、身だしなみを整える、手紙や葉書の書き方、お世話になったら礼状を出す、目上の方や患者さんへの礼儀、上司に言われた仕事はすぐにするなど、私は九大二外科の先輩から社会人としての生き方を徹底的に叩き込まれたような気がします。

ある先輩からは、「初めての病院にいってどこをみるかわかるか?」と聞かれたことがあります。答えは、掃除が行き届いているか、職員がちゃんと挨拶するか、この2点でその病院が良い病院かどうかはわかるということでした。「なるほどな。」と感心したことを思い出します。

昔、私に調  憲 御中という宛名で送ってきた手紙がありました。手紙の内容は覚えていませんが、このことは忘れられません。常識のない人だなあということですよね。若い人ならともかく、いい大人にこんなこと、直接注意することもできないですよね。ですから、このようなことを教えてくれた先輩たちに感謝です。今でも井口先生や杉町先生からは直筆でのお手紙やお葉書のお返事をいただきます。やはり直筆の手紙をいただくと本当にうれしいし、強く印象に残ります。私もはがきや手紙はできるだけ直筆で書いて出すようにしています。

白衣の前はボタンを留めて、ネクタイを必ずする。これも徹底的に指導されました。だらしない恰好をした医師に診てもらいたいという患者さんはいないと思うし、ネクタイは患者さんに対する敬意だと教えられました。特に君たちは高齢者の患者さんたちに信頼してもらわないといけない。お会いして最初の1分で患者さんの信頼を勝ち取らないといけません。それにはどのような服装がふさわしいかを考えてほしい。

大学での1年目の研修を終えて、別府の国立病院に2年目の研修医として赴任した時、少しいきがっていたのでしょうね、ノーネクタイで病院に行ったら、その病院の外科の先輩から「君は大学ではノーネクタイだったのか?」と聞かれ、「いいえ。」と返事をしました。そうしたら、「大学でできないことをここでしないでくれ。」と叱られました。また、先輩の先生が日曜日に大学の病棟にノーネクタイでいたところを当時の杉町教授に見つかり、「日曜日だからといって患者さんに変わりはないだろう。」と叱られていました。日ごろはネクタイをしていても日曜日くらいはいいだろうとラフな格好で病棟に来る医師はいます。ある先輩は、「俺は日曜日休みのところをわざわざ出てきてやっていると患者さんにいうためにノーネクタイで来るんだよな。そんな恩着せがましいことはしないでくれ。」と言っていました。確かに服装が患者さんへの敬意のあらわれとすると、杉町先生の患者さんに変わりはないだろうという言葉はわかります。また、別府の先輩が言ったことは大学の患者さんも別府の患者さんにも違いはないだろうということですよね。このような経験からいまだにノーネクタイで病棟に行くことが私にはできないのです。

患者さんはもちろん、他の医師や医師以外のメディカル・スタッフに対するリスペクトは大切です。リスペクトを行動で表すとしたら、服装や挨拶はまず第一歩ですね。