最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるでもない。
唯一生き残るのは変化できるものである。
この言葉は進化論を提唱したイギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンが言った言葉としてネット上で紹介されています。しかしながら、どうもダーウィンの言葉ではないのではないかというのが最近の定説のようです。ダーウィンは確かに進化の結果として生き残った種があるということ(自然選択)を明らかにしたわけですが、生物が生き残るために意思をもって変化したわけではありませんので、おそらく違うでしょうね。私も「種の起源」を改めて読みましたが、そのような記載はどこにもありませんでした。後年、誰かが言った言葉を誤解してダーウィンの言葉として広げてしまったというのが真相のようです。
現代社会の変化は著しく、自分が学生の頃を思えば(もう30年以上前のことになってしまいましたが)とてつもなく変化が起きています。例を挙げると私の学生時代は音楽もLPレコードの時代でした。研修医になって1年目の忙しい日々の中、医学部を卒業して初めて半年ぶりにレコード屋に行ったらすべてがCDになっており、茫然としたことを今でも鮮明に覚えています。いずれにしろ、冒頭に紹介した言葉は目まぐるしい変化を遂げる現代社会において生き残っていくために自分自身を変えていくことが重要という意味だと思います。
一方、「不易流行」という言葉があります。この言葉は俳聖・松尾芭蕉の言葉として伝えられています。芭蕉一門の俳風を述べた「不易流行其基一也」という文章があり、「不易」とは「人の心か社会の隆替まで世の中の森羅万象を司る不変の法則、時を越えた心理」のことを指し、「流行」とは「時代性や環境条件により時に法則を打破する様々な変化」を指すそうです(サントリー不易流行研究所より引用)。
私達、外科医にとっても腹腔鏡手術や3D画像をはじめとした技術革新は著しく、臨床の場に積極的に取りいれることで患者さんにとって大きな福音となっています。しかし一方で、患者さんへの敬意や感謝の気持ち、患者さんの病気を治したいという外科医としての熱い気持ちやprofessionalとしての倫理性の重要性は未来永劫変わらない、変えてはいけないものだと思います。さらに科学的な最新の知識や技術を常に吸収し、それに基づいて冷静な観察を行い判断を下すことも医師である以上必須で、変えるべきではないことだと思います。
群馬大学では外科学講座の再編が行われ、来春には大講座制に移行することが決定しています。旧第一外科、第二外科の関連病院では人事に関して様々な憶測が流れて、動揺している先生方もいると耳にします。人事は1. 群馬県の外科医療を堅持していく、2. 外科医のモチベーションを保ち、継続的に成長できる環境を整える、などの原理原則に従ってすすめられるべきであると考えています。制度改革を「流行」と考えればこの原理原則は「不易」といえるのではないでしょうか。
私達は、変化著しい現代社会に生きる外科医として、変えるべきものと変えるべきではないものの両方を常に考え、それを見極めていくことが求められていると感じています。