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教授コラム

教授コラム Vol.37「外科医の父より医師になる息子へのメッセージ4 急患をみれるようになる。」

君は初期研修医として救急外来で患者さんを診ることになるはずですね。医師として救急に対応できることはたとえどのような専門医になろうとも大切なことです。

救急外来には様々な患者さんが来ます。一見さほど重症に見えなくても早急に対処しなければならない患者さんが紛れている、その判断が患者さんの生死に直結する、救急はとても大切な領域です。患者さんの訴えをよく聞くこと、そして患者さんの重症度を適切に判定することが大切です。この患者さんはそのまま返してはいけないということを感じられることが大切です。

症例をたくさんこなしたいという希望を若い先生からよく聞きます。確かに多くの症例を経験することは大切ですが、ただその場で問診をして、診察をして検査をして薬を出して終わりでよいでしょうか。そのような経験をある程度して、自分が成長したような気分になった若い先生方がいます。通り一遍の患者さんへの対応や電子カルテの扱い、簡単な薬の処方に慣れただけで事務的な対応が早くなっただけのことを、医師として成長したと錯覚してしまいがちです。

私は自分が診た患者さんがどうなったかを知ることが大切だと思います。今は電子カルテですから、前の日に自分が受け持った患者さんを振り返ることができますし、またその患者さんがその後具合が悪くなって受診していないかをチェックできます。もし、外科に紹介した患者さんがいたらできれば手術を見に行った方が絶対いいです。自分で見た身体所見や採血結果、画像診断などすべてと手術所見を照らし合わせることができるのです。これほどよい振り返りの機会はありません。

さらに珍しいあるいは経過が勉強になる患者さんのことは症例報告にまとめることが大切です。人間の記憶などあやふやなもので、記録に残しておかなければ詳細は忘れてしまいます。“なんだか前にも似たような患者さんがいたなあ。”で終わってしまいます。また、実際にまとめるために今までの報告について勉強しなければいけません。このような学習は医師にとって大切なことです。

大丈夫と思って家に帰した人の中にもっと重大な患者さんが紛れていることが一番怖いですよね。以前私は救急の多い病院に赴任したことがあります。実は救急外来に歩いてきた患者さんを研修医が診察して大丈夫と家に帰したところ、その患者さんは半日後に救急車で搬送されました。再び運ばれてきた時はショック状態になっており、汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を行いましたが、時すでに遅しで救命できませんでした。最初に来られた時に診断をつけることは確かに難しい患者さんだったと記憶しています。ただ、問題は研修医がその患者さんのその後の経過を知らなかったことです。そこで私は救急から外科に紹介していただいた患者さんの振り返りの勉強会を始めました。とっても人気のある勉強会になりましたが、みんな振り返りの大切さに気付いていたからだと思います。

君は大学入試で受験勉強をする時にたくさんの問題を解いたと思います。しかし、たくさんの問題を解いたとしても解きっぱなしでは学力は上がりませんよね。答え合わせをするでしょう。答え合わせなしでやみくもに問題をと解いたとしても学力はあがるでしょうか。むしろ気づかないうちに同じ間違いを繰り返しているかもしれません。

もうひとつ、少し慣れたころが要注意です。車の運転と一緒ですね。緊張感を失わずに患者さんに接することが大切です。

よく1例1例を大切にすると言いますが、まさに振り返りの努力こそが1例を大切にすることだと思います。「一見平凡に見える患者さんの興味深い点を見出し、そこからメッセージを導き、その患者さんの大切さを示すことができること、それが医師の実力だ。」と先輩に教えていただきました。多くの症例を経験し、1例1例を大切に振り返りをすることで必ずこのような域に達することはできると思います。