群馬大学医学部附属病院肝胆膵外科は医療事故報道に対応する改革の一つとして2015年11月に誕生しました。「肝胆膵疾患に罹患した患者さんおよび家族の人生をよりよいものにするために、最良の医療を提供します。」を理念(2015年11月制定)に私たちは行動してきました。
また、平成28年7月に答申された群馬大学医学部附属病院医療事故調査委員会報告書(上田裕一委員長)をバイブルとして医療安全の規範となるべく診療を行ってきました。患者さんやご家族への丁寧な説明、外科チーム全体で患者さんの病状を把握・治療する体制の構築、外科以外の専門医師、メディカル・スタッフとの信頼と絆に基づくチーム医療の実践、合併症やインシデンスなどを即座に報告する透明性の担保、新規高難度医療や経験の少ない医療を行う上での先端医療開発センターや倫理委員会への事前のコンサルトなど、群馬大学医学部附属病院の総合力を引き出す最高のチーム医療の実践を目指しています。
医療事故の報道の影響で2015年には手術症例数は激減しましたが、2016年から増加しています(図1)。日本肝胆膵外科学会の高難度手術は学会が認定した肝胆膵外科の難易度の高い術式ですが、2018年は103例を施行いたしました。
しかしながら、症例数が多いだけではなく、医療の質が重要です。群馬大学医学部附属病院では医療事故により日本肝胆膵外科学会の修練施設を取り消されていました。そこで、2016年の症例を持って再申請をさせていただきました。2016年の肝胆膵外科高難度手術記録改善報告書(診療体制、医療安全体制、合併症・出血量の経年比較)を提出した後、2017年4月に実際に病院に2名の学会の理事・幹事に病院訪問(サイトビジット)をしていただき、診療録の内容なカンファレンスをチェックしていただきました。さらには麻酔科医師、病棟看護師長、医療安全部部長、外科診療センター長、研修医にインタビューをしていただき、私たちの医療を評価していただきました。その結果、2016年の学会評議員会で以下の報告をしていただきました。
「以前に、修練施設認定されていたが認定取り消しとなっていた群馬大学から再認定申請があったため、審査が行われました。改善報告書などの資料の提出の上、不適当とされた状況に対して適切な改善策が図られ、確実に実施されているか確認するため、サイトビジットを行いました。その結果、医療安全に関する改善はほぼ完璧であること、きわめて質の高い手術と周術期管理およびガバナンス体制が構築されていることが確認されました。また、術後成績もきわめて良好でした。したがって、再認定として問題ないと判断しました。ただし、大きな社会的問題になり認定取り消しを行った点を鑑み、2年間のモニタリングを条件といたします。」とのコメントをいただきました。その成績は日本肝胆膵外科学会修練施設の中でも優れたものであったと聞いており、修練施設Aとして再承認をしていただきました(図2)。さらに2017、18年の手術症例を毎年検討の後、2019年5月にサイトビジットに来ていただき、2年間の診療を評価していただきましたが、問題なしということで2019年6月に正式に修練施設Aとして承認していただきました。
当科では日本肝胆膵外科学会高度技能指導医2名(調 憲教授、播本憲史 講師)に加え、2名の高度技能専門医が認定されています。2018年に新木健一郎 助教、2019年に久保憲生 助教が日本肝胆膵外科学会高度専門医に認定されました。この資格は厳正な手術ビデオの審査に基づいており、合格率50%程度の難関になっております。指導医2名、専門医2名の診療体制は群馬県下では他にはありません。当科では高難度手術については安全に手術を遂行するために経験豊富な指導医か専門医が手術に入る体制としています。 以前の医療事故が内視鏡手術に端を発したものであることから、私たちは内視鏡手術の安全性について格別の配慮をしてきました。新木健一郎助教は2017年日本内視鏡外科学会の肝切除の技術認定医に認定されました。これも厳正なビデオ審査による認定で、合格率は約20%とされ、群馬県では初の認定でした。この他、播本憲史講師は脾臓手術に関して、五十嵐隆通助教は副腎手術について内視鏡技術認定医資格を取得しています。当科は3名の技術認定医によって内視鏡手術を安全に遂行できる体制となっています。
2018年の施行術式をお示しします。肝胆膵の悪性腫瘍に対する手術が多いことが当科の特徴です。肝胆膵の癌に対する手術は難度の高い術式が多いのですが、肝切除や膵切除など、症例を多く経験しています。また、胆管の切除をともなう肝切除も積極的に施行しています。
私共は群馬県の肝胆膵疾患の患者さんに安全で質の高い診療を提供するために今後とも努力をして、地域の皆様の信頼にこたえてまいります。