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教授コラム

教授コラム Vol.25「Take the first step in faith. You don’t have to see the whole staircase, just the first step.」

Take the first step in faith.
You don’t have to see the whole staircase, just the first step.

Martin Luther King, Jr (1929-68)

先日は群馬大学の総合外科学講座の成長は一人ひとりの成長にかかっているということをお話ししたと思います。個人の成長とはなんでしょうか。人の成長とは極めて内発的なものです。いくら毎日外部から強い刺激を与えても成長するものではないと思います。みなさんの心の中にその「種」はあります。その種に自分で気づき、追求し磨き自己実現をすることが成長だと思います。自分の職業を決めるために自分探しの旅に出る人がいますが、決して答えは旅の過程には見つからないでしょう。その答えはあなたの中にあり、それを引き出すのはあなた自身だからです。

自分の種に自分で気づいていないことは往々にしてあります。みなさんよく御存じの横堀武彦先生(現群馬大学未来先端研究機構 講師)は研究のために、桑野博行先生のご高配で当時森 正樹教授(現大阪大学消化器外科)が主宰されていた別府の九州大学生体防御研究所に赴任しました。横堀先生は外科の臨床は大好きだったものの当時研究には全く興味がなく、どうしようかと思ったらしいです。しかしながら、三森功士先生(現 九州大学病院 別府病院外科 教授)に研究指導してもらいながら、必死で研究に取り組んで今では立派ながんの研究者になりました。今では横堀先生はたくさんの大学院生の研究指導を通し、良い影響を与え続けてくれています。彼は研究を始めた当時、自分が基礎の研究者になるとは全く思っていなかったと思います。目の前にある仕事を一生懸命やることで意外な「種」を発見し育てていったよい例ではないかと思います。また、私の出身の九州大学第二外科(現消化器・総合外科)にも外科以外で活躍するたくさんの先輩がいます。野本喜久雄先輩は我が国の免疫学の創始のお一人として高名な先生ですし、アフリカ・スーダンの医療支援で有名な川原尚行君、九州大学病院の医療安全管理部の教授として国際的な活躍をしている後 信君など、枚挙にいとまがありません。みなさん、自分の「種」を見つけ、その大きな喜びに突き動かされ行動し、結果としてそれぞれの分野で一流の人になったのではないかと想像しています。思えば今MBLで大活躍の大谷翔平選手も自分の野球に関するすべての可能性を否定することなく、自分の「種」を信じて一生懸命に努力をしてきた結果だと思います。

人は自分の中に種を見つけ、芽をださせ、育てることで強みが明らかになり、一人ひとりの形が創られていきます。それが自己実現です。それぞれの種を育てるために努力し、昨日より進歩することが個人の成長であり、結果としてそれぞれがかけがえのない存在になるのだと思います。特に若い人はえり好みをしないで目の前の仕事を必死でやることで意外な種を発見することがあるのだろうと思います。よく言われる「無限の可能性」とはそのことを指しているのではないでしょうか。そして仕事において自分を独自の存在にするものを見つけることが大切です。大学には臨床、研究、教育と幅広いフィールドがあります。ネガティブにとらえれば忙しいだけですが、すべてに前向きに取り組むことで新たな自分を発見する可能性も大きいのです。

もうひとつ大切なことは人生に現れるサインに気付くことではないでしょうか。人生には導くサインが現れている気がしています。今回、渡辺 亮君が、日本外科学会の若手外科医のための臨床研究助成金を獲得し、新木健一郎君が腹腔鏡肝切除に関して米国での見学を希望して日本外科学会より旅費を給付していただくことになったと聞いています。とても大きなサインだと思います。今後の外科医としての人生に生かし、それぞれの「種」を大きく育ててほしいと心から願っています。様々なサインに素直に耳を傾け自分へのメッセージとしてとらえ、その後の人生に生かし努力を続けることこそが大切なはずです。

昔、23年の長きに渡って長崎大学の外科の教授として奉職した晩年の祖父に聞いたことがあります。祖父の在任中8名の教授が誕生したそうです。「どうしてそんなに多くの教授が誕生したの?」という私の質問に対する祖父の答えはそっけなく「みんな自分で勝手になったんだよ。」でした。なんだか身もふたもないなあと思ったのを記憶しています。8名の教授の一人だった父(父は長崎大学の祖父の教室員で心臓血管外科を始め、後に大分医科大の教授になりました。)に「おじいちゃんに叱られたことある?」と聞いたところ、「あんまりないな。そういえば心臓血管外科をやれと言われた後に抄読会で消化管の論文を読んだら、えらく叱られたことがある。」と言っていました。祖父は父の進むべき方向性は示したものの、その後父は自分で努力したということでしょうか。それが、祖父の「みんな勝手になったんだよ。」という言葉になったのかなあと想像しています。

リーダーはミッションを示すことが最も大切です。ミッションを達成しようとする過程において人々に気づきのきっかけをつくったり、困難があれば手助し、後押しをすることはできると思います。しかし、それを受け止めて自分の「種」を発見し、育てることは自分自身にしかできません。いまは目の前の仕事に懸命に取り組むことが大切です。そのような自己実現を成長とすれば、成長は大きな喜びを伴うはずです。群馬大学総合外科学講座をそのような喜びに満ちた明るいものにしたいと強く思っています。そのような組織こそが困難にあっても強く、若い人々を引きつけ、結果として人が集う組織になるのだと信じて疑いません。

まだ、先のことはわからないけれど明日の成長のために、今が第一歩を踏み出す時です。