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教授コラム

教授コラム Vol.39「外科医の父より医師になる息子へのメッセージ6 拙速の教え」

君はまだ研修医なので、まだ先輩から仕事を頼まれることはあまりないかもしれません。ただ、年をとるにつれ、必ず先輩から仕事を頼まれるようになります。それをうまくやることは大切です。

「拙速」という言葉を教えていただいたのは研修医2年目のことでした。国立別府病院(当時、現別府医療センター)に勤務していた研修医2年目の時、大先輩から教えていただきました。ちょうどそのころ、消費税の導入をめぐって「消費税導入は拙速である。」などの新聞に掲載されていました。少し言葉の使い方がおかしいのではということも言われていました。

「巧遅は拙速に如かず。」という孫子の言葉です。場合によっては、ぐずぐずしているより、上手でなくとも、迅速に物事を進めるべきだということ。完璧を期すあまり、躊躇していると勝つタイミングを逸してしまうという兵法の教えだと思います。どんなに万全な作戦をたてても勝機を逸しては、絶対に戦いには勝てません。

3年目には研修医を終えて研究室に配属されました。その一日目、杉町先生の教授室に呼ばれました。「調君、このことを調べてくれんか?全然急がんからな。君の時間のある時にいつでもいいぞ。」と言われ、教授室をでました。その日の夕方、杉町先生から呼ばれ「あれはどうなった?」と聞かれ、まだ何もしていなかった私は絶句しました。あれから6時間しかたっていないのだが...。杉町先生はにこっと笑った気がしました。上司から言われた仕事はすぐするものだということをまず最初に教えていただいたのだと思います。実際、杉町先生自身、何か頼まれごとをするとその場で解決するために電話することが普通でした。

まず、仕事をしなければならないときには、仕事のアウトラインを掴むこと、何が目的か、どれくらいの仕事量であるかを即座に確認することが大切です。その上でデッドラインがいつかを設定することです。デッドラインは本当の締め切りよりも1週間くらい前に設定しておくのです。1週間早めに先輩に見ていただければいろんなアドバイスをもらえます。それによってさらに仕事の精度を上げることができます。いただいた仕事を先送りにして「明日やろう」と思っていると、仕事は溜まっていく。結局は仕事に追われる、締切に追われることになります。そのような中で質の高い仕事はできません。デッドラインを意識して仕事のやり方を逆算していきましょう。そうすれば今何をすべきかが見えてきます。時には自分で設定した締め切りで自分を追い込むことも必要です。締め切りがなければその仕事が順調にすすんでいるのかどうかもわかりません。興味が次のことに移って結局は何も成し遂げられず、終わってしまう、そんなところが普通ではないでしょうか。

このように九大の第二外科では様々なことを学びました。そして当時の九大二外科のすごいところは、確かに朝頼まれた仕事を夕方には終える人達がたくさんいました。

仕事のやり方については井口 潔先生が書かれた「老婆心録」という若い教室員へのメッセージ(人生訓)によく書かれています。ネットで見ることができますので一度読んでみたらいいと思います。拙速の言葉はでてきませんが、その一節には「仕事のポイントを早く把め。そして突進せよ。」とあります。九大の第二外科からはたくさんの有為な人材が出ていますが、老婆心録にある精神が貫かれていることと無縁ではないと思っています。

医師以前によき社会人であること、組織人であること、そして仕事を確実に仕上げていくこと、若いころからの訓練で、そのようなことが体にしみついていること、このことが大切です。