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教授コラム

教授コラム Vol.8「奴雁」

「奴雁」という言葉をご存知でしょうか。

「学者は国の奴雁なり。奴雁とは群雁野に在て餌を啄むとき、
其内に必ず一羽は首を揚げて四方の様子を窺ひ、不意の難に番をする者あり、之を奴雁と云ふ。
学者も亦斯の如し」。
「人の説を咎(とが)む可らざるの論」。
福沢諭吉全集第19巻(明治7年)

この言葉は第24代日銀総裁の前川春雄(名日銀総裁として有名)によって引用され、有名になりました。最近では、慶応義塾大学外科学講座の教授、病院長、医学部長を歴任され、第100回の日本外科学会定期学術集会の会頭を務められて、退官後は国際医療福祉大学の副理事長、名誉学長の北島政樹先生が何かの折に引用されていたとお聞きしました。

「仲間たちが餌を啄んでいるときに、不意の難に備えて周囲に注意を払っている」見張り役の雁がいて、その雁を奴雁と呼ぶそうです。

福沢諭吉先生は「学者は未来に向けて警鐘をならしたり、あるいは時流に流されることなく皆が気づかない危険を察知する立場でいなければならない」ということを言いたかったのでしょう。

私達の職場はいろんな危険に満ち溢れています。医療という複雑な、かつ時には侵襲的な行為を行う中で、同じ医療行為をしても患者さん一人ひとりの反応が異なる。このような不確実性の中で日々診療を行っています。
僅かな危険な兆候にも反応できるように「奴雁」としての役割を果たして仲間を守るそんな心構えがいるように思います。医師たるもの、医師以外のメディカル・スタッフを含め守る位の気構えを持って診療をしていきましょう。それがチーム医療の第一歩となると信じます。