私は今、前橋市内の開業医の先生方を訪問し、院長先生ご挨拶をしてご意見を伺っています。前橋市内だけで40を超える病院を訪問する予定です。一つ一つの病院を訪問することによってたくさんの開業の先生方が前橋の患者さんのために貢献していただいていることを実感できます。
先進的な、あるいは専門的な高度な医療を要する患者さんや全身合併症をお持ちの患者さんの治療を行うことは大学の附属病院の重要な使命です。一方で若い先生方が、外科的な救急疾患やいわゆるcommon diseaseに対する外科治療について学ぶことのできる場であることも必要です。そのような背景から紹介患者さんが増えないかと思い訪問を始めたのですが、今までの様々な事情や状況もあり、紹介患者さんが増えることはそう簡単ではないと思っています。しかしながら、群馬大学が地方にある大学である以上、地域の医療に貢献することは大切な使命であり、その姿勢を皆さんにお伝えすることは重要と考えます。その結果、少しでも開業の先生方の診療にお役に立てるのであれば望外の喜びです。群馬大学は“最後の砦となるべし。”と面談で言っていただいた群馬大学外科診療センターの先生もおられましたが、“最後の砦”としては地域医療に責任を果たすことは必須でしょう。私たちは外科診療センターのみんなで話し合った結果、かかりつけ医の先生にご連絡をしていただきやすくしやすくするために24時間365日対応する携帯電話を新たに設置し、先生方にご案内しています。そのような形で、地域医療に貢献するための努力をするという私たちの姿勢をお知らせることが大切だと思います。
また、今までの群馬大学が市内の開業の先生にとってどう映っていたのかを知ることは今回の訪問の大きな目的のひとつです。ある内科の医院を訪問した時でした。院長のY先生は40年近く前橋市で内科と小児科で開業をしてこられ、医師会でも中心的な役割を担ってこられたベテランの先生です。先生は静かに私に一人の患者さんのカルテを示されました。この患者さんは十二指腸に腫瘍があり、Y先生の医院で検査後に群馬大学の肝胆膵外科に紹介をいただいた患者さんでした。入院後の検査で肺に腫瘍がみつかり、生検の結果実は十二指腸の腫瘍は肺腫瘍からの転移であったことがわかりました。肺腫瘍に対する化学療法が第一選択ということになり、当科から呼吸器内科へ転科後に肺の腫瘍に対する化学療法を行っていただいた患者さんでした。診断をつけて内科に紹介をしましたという肝胆膵外科からの報告書はY先生のところに届いていたのですが、群馬大学からのY先生への報告はそこで終わってしまっていました。Y先生は程なく地方新聞の訃報の欄でその患者さんが亡くなられたことを知ったということでした。
Y先生からは、内科の主治医がわからないし、大学病院だと患者さんの情報の提供を求めることはとても難しい。Y先生はその患者さんの奥様やその他のご家族のかかりつけ医をされておられ、その患者さんのことがわからないことは大変困るということでした。ここまでの思いは勤務医には希薄だと思います。たいへんよい勉強をさせていただきました。
私共の科では基幹病院から患者さんを紹介していただくことも多く、その過程でかかりつけ医の先生方への報告が途切れてしまわないように十分注意を払っていたつもりでしたが、今回の患者さんは治療の主体が他科であったこともあり、報告が中途半端に終わってしまったと思います。患者さんの担当をしてくれていた肝胆膵外科の先生に患者さんの名前を言ったところすぐに患者さんの病状がでてきましたので、患者さんへの思いはしっかりあって、報告書からも良い診療をしていたことはわかりました。しかしながら、地域の医療に対して覚悟と責任感をもって取り組んでおられるかかりつけ医の先生方への配慮は足りなかった。群大の他診療科の先生がたやかかりつけ医の先生がたとの連携には改善の余地があります。よく“一例一例を大切に”といいますが、診療内容のみならず、連携にも力を入れていく必要があります。
私たちはかかりつけ医の先生方が地域の患者さんに対する強い思いを持っておられることを知り、その矜持に応えるべく、かかりつけ医の先生方と大学との連携の強化に努め、患者さんを中心とした医療を構築していく必要があると感じました。