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活動記録

ACS Japan Exchange Fellow 研修報告

この度、日本外科学会と米国外科学会(American College of Surgeons, ACS)とのJapan Exchange Fellowとしてボストンで開催されたACS Clinical Congress 2018に参加させていただきました。またデンバーとピッツバーグにおいて、2施設で手術見学など研修することができました。研修内容を報告させていただきます。
ボストンでのACS Clinical Congressでは、Opening ceremonyに参加し、International scholarとして表彰していただきました。またパネルセッションで各国のScholarとともに発表させていただきました。ACSではInternational Scholarになれることは非常に名誉なことのようで、改めて光栄と感じることができました。
ボストンでは、Massachusetts General Hospital (MGH)にある西洋における最初の全身麻酔手術(1846年、Morton)が行われたエーテルドームを見学することができました(写真1-1、1-2)。兼ねてより私の恩師である桑野博行先生(群馬大学名誉教授)より、我が国における華岡青洲先生による麻酔手術(1804年)がこの歴史よりも先に行われたとご講義いただいており、ここを訪れたいと思っていました。どちらが先かはいずれにせよ、外科手術の原点である神聖な場所を訪れることができ、外科医として感慨深いものを感じることができました。

  • エーテルドームの様子1
    写真1-1 MGHのエーテルドームにて
  • エーテルドームの様子2
    写真1-2 MGHのエーテルドームにて

このInternational Scholar制度には指導者(Mentor)がつくのですが、私はUniversity of ColoradoのRichard Schulick教授にお世話になりました。ボストンに引き続きコロラド(デンバー)に訪問させていただき、まずキーストーンという山岳リゾート地にあるSchulick教授の別荘で土日を過ごさせていただきました。この週末2日間はドイツとアルゼンチンからのScholarとSchulick教授の4人で、山歩きをしたり、米国で有名なレッドロック野外劇場を訪れたり、ディナーを楽しんだりしました。Schulick教授は非常に紳士な方で、恐縮してしまうほど歓待していただきました(写真2)。週明けからはUniversity of ColoradoのDepartment of Surgeryにて、Grand Roundsで発表させていただき、手術見学やカンファレンスに参加しました。Schulick教授はJonsHopkins大学から赴任した膵臓外科医であり、米国での膵臓外科の現状を学ぶことができました。手術は膵切除が200例を超える施設であり、膵切除やRobotic肝切除などを見学しました。

Schulick教授と
写真2 Schulick教授(右)との写真

最後の訪問地ピッツバーグでは、University of Pittsburgh Medical Center(UPMC)のDr. Amer ZureikatによるRobotic Pancreaticoduodenectomy(RPD)を見学しました。UPMCは全米で最もRPDを行っている施設で、卓越したテクニックを見ることができました。またRobotic Pancreas Courseを見学し、Bio-tissueを用いた非常に実践的なRobotic膵切除の教育コースを見学しました(写真3)。UPMCではRPDの膵液瘻は5%程度で、開腹よりも低い傾向とのことでした。米国ではロボット手術がかなり普及しおり、いくつかの有用なデータを示していただき、日本でも意識せざるを得ないと感じました。

Robotic膵切除の教育コース
写真3 UPMCでのRobotic Pancreas Courseの様子(Dr. Amer Zureikat、中央)

私は過去にフランスへ留学をさせていただき、Brice Gayet教授に腹腔鏡下肝切除を学んだ経験があります。今回志望させていただいたのも、留学で学んだ腹腔鏡手術を群馬大学で実践する中で、さらに発展させるにはどうすればよいか、そのためにも米国における最先端のMinimal Invasive Surgeryの現状を知りたいという思いがありました。今回の研修で、今後の展望を見据え、そして考え直す良い機会とすることができました。海外と日本では手術適応や、腫瘍外科として根治性を考慮した切除範囲、安全性に対する考え方など相違する点もありますが、それを如何に日本で実践するか、そして地域医療へ還元するかということは常に考えていかなければならないと思いました。
今回このような大変貴重な機会をいただきました日本外科学会理事長の森正樹先生、同国際委員会委員長の大木隆生先生、同ACS Japan Chapterの矢永勝彦先生、またピッツバーグの訪問先をご紹介いただきました上尾中央総合病院の若林剛先生、そして本研修へ私を推薦いただいた当教室教授の調 憲先生に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

文責:新木健一郎