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活動記録

第10回日本モンゴル消化器癌ジョイントシンポジウムに参加しました!

モンゴル帰朝報告

平成30年8月24日から27日にモンゴルを訪問し、第10回日本モンゴル国際消化器癌シンポジウムに参加してきました。このジョイントシンポジウムは東京女子医大の山本雅一教授を中心に中山がん研究所の重要な事業として行われてきました。

モンゴルは飛行機で成田から約5時間、1時間の時差があります。約300万人の人口で日本の国土の4.1倍です。モンゴル民族は元々遊牧民族ですが、今は首都のウランバートルに120万人以上が居住しています。10年前からこのシンポジウムは開かれていますが、この10年間モンゴルは急速に発展しているという印象だそうです。モンゴルはみなさんにはあまりなじみがない国かもしれませんが、「スーホの白い馬」という童話は聞いたことがあるのではないでしょうか。チンギス・ハンは国の英雄です。

  • 発表の様子
  • Active Research Fellows from Mongolis
  • 第10回日本モンゴル消化器癌ジョイントシンポジウムの様子

九州大学第二外科の肝臓グループの大先輩である松股 孝先生がこのシンポジウムの開催に当初からかかわっておられた関係で前から誘われていたのですが、なかなかチャンスがなく、私は今回が初めての参加となりました。今回の参加者には九州大学の外科の恩師の杉町圭蔵先生ご夫妻、松股 孝先生ご夫妻をはじめ、九大の肝臓グループで苦楽を共にした池田哲夫先生(現福岡歯科大 外科教授)、武冨紹信先生(現北海道大学消化器外科I教授)、宇都宮 徹(現大分県立病院外科部長)、岸原文明(現製鉄八幡記念病院外科部長)、山下洋市先生(現熊本大学消化器外科准教授)など同門の先生方も多く参加され、たいへん楽しいモンゴル訪問となりました。

24日の朝、前橋を出発しお昼前に成田エクスプレスに乗っていると中山がん研究所の秘書の方から携帯が鳴り、「本日は台風のためにモンゴル航空の飛行機がキャンセルになりました。明日の朝いちばんの飛行機に変更になりました。」との連絡がありました。途方に暮れた気分でしたが、何とかなるだろうと気を取り直し、どうせ朝いちばんなら成田に泊まるしかありません。その日は一同旅行会社が手配してくれた成田ANA crown plaza ホテルに宿泊し、25日の朝いちばんの便で出発しました。

25日の午後からの発表ということで、モンゴルウランバートルについてすぐの発表でしたが、何とか無事に発表を済ませることができました。内容は今群馬大学で取り組んでいる肝切除における出血量の低減の工夫と成績について紹介させていただきました。

群馬大学の外科には3名のモンゴルからの留学生が一生懸命、基礎研究に取り組んでおり、そのことも紹介させていただきました。

オープニング・セレモニーではモンゴルの大統領も参加し、祝辞を述べられたとのことでしたが、わたくしたちの到着前の午前中に行われていたので、直接拝聴することはできませんでした。

このシンポジウムは国立モンゴルがんセンターのChinburen先生を中心に行われています。Chinburen先生はモンゴルの肝胆膵外科学会のpresidentでもある外科医です。フランスのリヨンで肝移植を学び、名古屋大学の二村雄次先生のところで肝門部胆管癌の手術を学んだとのことでした。生体肝移植のプログラムを中心になって開始したところとのこと、優れた技術を持った肝胆膵外科医であると思います。

  • 大統領官邸でのミーティング
  • 大統領官邸でのミーティング
  • モンゴルの大草原

翌25日の朝には、このChinburen先生のお計らいで、モンゴル大統領の官邸を訪問し、直接拝謁する機会を得ました。この時、Chinburen先生が群馬大学で留学生が多数の論文業績を挙げており、大変よく指導をしてもらっているということを紹介していただきました。実際、Navchaさんはすでに大学院を修了し、群馬大学で学位を授与されています。Dolmaさんは大学院生で研究中ですが、4編の英文論文の共著者となっています。Baatar君はまだ本格的に研究を始めてまもなくまだ論文執筆はありませんが頑張っているため、必ず成果を上げてくれると思います。3名の研究を横堀武彦先生が献身的に指導していただいています。このような成果を大統領に直接紹介していただきましたことに私自身大変誇らしく感じました。Dolmaさんは一緒に今回のモンゴル訪問に同行していただき、大変お世話になりました。

この日のランチはChiburen先生のご自宅にお邪魔し、奥様の手作りのお昼ご飯の歓待を受けました。Chinburen先生のご自宅は新築の16階建ての高層マンションの15階にあり、たいへん見晴らしのよいおうちでした。奥様が腕によりをかけて料理をふるまっていただき、正直言うと滞在中いちばんおいしい料理でした。

その後、Chinburen先生から3日前の生体肝移植をした症例が少し出血しているので一緒にみてくれないかとのお願いがあり、武冨教授と私で実際の患者さんを見せていただきました。この症例は止血のために再開腹をしたどうですが、現在経過は良好と聞いています。よかったです。

それから、わたくしたちはモンゴルの伝統的なゲルに行きました。ウランバートルの郊外に観光用にゲルを作っている施設があり、そこを訪問しました。大草原の中にゲルがある風景はモンゴルのイメージそのままでした。美しい草原の風景に心癒されました。

今回の訪問でウランバートルは大都会という印象でしたが、何度か訪問している先生のお伺いすると、10年前からは大発展を遂げているということでした。肝胆膵外科の領域でも生体肝移植のプログラムが立ち上がっており、発展の方向に急速に向かっていることがわかりました。また、Chinburen先生のお話だとモンゴルでは国民の死因としてがんは第一位で、その中でも第一位は肝癌、第二位が胃癌とのことで、日本の消化器外科医がモンゴルの外科に貢献できることが多くあるように感じました。Chinburen先生はがんセンターのトップであるばかりか、モンゴルの肝疾患の診療のトップとして活躍しているとのことでした。モンゴルで非常に多いC型肝炎の薬剤を安価で購入できるように製薬会社と交渉し、大幅な値下げを引き出したり、モンゴルの肝炎撲滅プロジェクトをトップとして指導しているとのことでした。肝胆膵外科医として様々な癌の手術をするばかりか、肝移植のプログラムを開始し、さらには肝炎撲滅プログラムも主導しているとのことでした。だからこそわたくしたちが大統領と面談できる機会を作っていただいたのだろうと思います。モンゴル国の厚生行政にも大きな力を持ってるのだろうと思いました。

群大の留学生のDolmaさん、Chinburen先生をはじめとしてみなさんが一生懸命歓迎していただきました。私はこのようなモンゴルの皆さんとの友情を大切にし、優れた人材の育成や臨床面でのお手伝いができればと思いました。国を超えてお互いを思う気持ちを大切にすることの重要性を今回の訪問で強く感じました。

最後に滞在中献身的にお世話いただいた多摩北部医療センター 消化器外科医長の高橋 豊先生に深く感謝を申し上げます。また、今回のシンポジウムの企画・運営を行っていただいております東京女子医科大学の山本雅一教授に心から感謝を申し上げます。忘れられない人々との出会いがあった、忘れられない旅でした。

調  憲